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n史郎がツイッター字数制限以上のつぶやきをしたいときの置き場です。

素顔を晒し合う唯一の二人について(コミックス版ニンジャバットマン感想)

 ニンジャバットマン(コミカライズ)、俺の負けだ……

さきほど書いた記事でも記載したが、映画「JOKER」の予習目的で見たダークナイトトリロジーをきっかけに今絶賛バットマンにハマり中である。

ダークナイトトリロジーを見終わり、「バットマンブルース・ウェイン、好きだ…最高…」となった後、あと映画一本くらい見る時間がちょうどその時あった。そこで、できればあまり頭を使わず心も落ち込まないバットマンが見たいと思い、ニンジャバットマンとレゴバットマンザムービーを天秤にかけ、「安心の中島かずき脚本ですからね」とニンジャバットマンを選択した。結果、めちゃめちゃ面白かった。安定の見るアトラクションだった。多分リアルタイムで見に行けたら三回は見たと思う。

さて、このニンジャバットマンを見たときの私は予備知識がダークナイトトリロジーしかなかったので、理解できるキャラクターというのがバットマン、アルフレッド、キャットウーマン、ジョーカー、トゥーフェイス、ベインだけだった。なんと言うことだろう、ロビンたちが全くわからないまま見ていたのである。

公式サイトの登場人物一覧と、さらっとwikiを読んだことでなんとなく踏まえて見たのでなんとなくそこは楽しめたのだが、ただ圧倒的に気になるキャラがいた。

 

ジェイソンである。

 

ディック、ティム、ダミアンがみんな似た感じのドミノマスク式忍者スタイルであるしバットマンも忍者だっていうのに(途中までは甲冑を着ているので外見は戦国大名だが)一人だけ虚無僧の明らかに浮いているやつがいる。なんだお前、なんでお前だけ着流しなの?しかもお前だけ銃だし。みんなヒーローだから殺しはNGなんじゃないの?ダークナイトライジングでもバットマンは銃はNGみたいなこと言ってキャットウーマンとなんやらかんやらするくだりあったよ?私知ってるかんね。お前どういう子なの?

元ネタを見ればジェイソンのヒーロー(彼の場合ヴィランなのかヒーローなのかが曖昧だが)スタイルは赤メットだし彼の武器はもともと銃なので、まあなるほど赤い虚無僧でナイスキャラデザなのだが、要は私の目に止まってしまったのだ。しかも声、石田彰だし。

 

かくして、気になるあの子・ジェイソン/レッドフードへの好奇心が止まらず色々詳しくネットの海をあさりひっくり返り慌ててロビン・イヤーワン、デス・イン・ザ・ファミリー、ハッシュ、アンダー・ザ・レッドフードあたりの邦訳版を追っかけた上で私は「こんな神漫画あっていいのかよ」と涙を流しながら一人でも多くの人類がこの漫画を読んでほしいと思ってやまない漫画がある。

 

そう、ニンジャバットマン(コミカライズ)のことだ。 

ニンジャバットマン 上巻 (ヒーローズコミックス)

ニンジャバットマン 上巻 (ヒーローズコミックス)

 
ニンジャバットマン 下巻 (ヒーローズコミックス)

ニンジャバットマン 下巻 (ヒーローズコミックス)

 

 バットマン歴が赤ちゃんどころか受精卵レベルのニワカオブニワカの私だが、もうなんというか確かできっと間違えていない予感を覚えている。

多分この世に上記二冊以上にアンダーザレッドフード以降のブルースとジェイソンの関係に向き合ってくれる公式の作品ってないのかもしれない、って。

それぐらいこの漫画二冊はすごい。映画とは起点と終点こそあっているが他はとてもいい意味でオリジナルで、映画がアクションと爽快感重視なら漫画は(もちろんキャットウーマンとハーレイの戦闘なんかは相当ゾクゾクするのでアクションも申し分ないのだが)とにかくストーリーがすごい。小学生みたいな感想だがストーリーがすごい!!情緒が完全に震えるぞハート燃え尽きるほどヒートで血液のビートを完全に刻んでいる。ネタバレをせずに紹介することがここまで難しいとは思わなかった、いつもネタバレ考察しかしていないから…

そして今回の記事では、コミカライズのニンジャバットマンに登場するロビンたち4人の中で唯一「仮面を外すことを許された」ジェイソンの素顔の要素についてクローズアップしたい。

 

※以下コミックス版のネタバレです。まだの人がいたら上記リンクからまずはポチって読んでほしい。

 

コミカライズ版にのみ存在する「素顔のジェイソン」について

コミカライズニンジャバットマンはストーリーの流れこそ映画と異なるものの、そのキャラデザは映画版にかなり忠実だ。そんな中で、唯一に近い形でオリジナル要素として存在するものがある。素顔のジェイソンだ。

厳密に言うとガリガリのゴリラグロッドとか映画には出ていないオリキャラ等もいるし、下巻のおまけではロビンの四人全員の素顔が見られる。が、それはコミカライズ版が独自のストーリーを展開させる上で必要だった要素とか、日常後日談で四人が仮面をつけるのはおかしいということで外している必然の改変であり、個人的には映画で素顔が全くわからないロビンたち四人のうち一人の素顔をオリジナルのデザインで描き(しかもそれが素顔でなければならなかった事実関係上の必然性はストーリーの展開的にはない)というのは結構勇気のある一手だったのではと思う。

※ただ、圧倒的に久先生が「うまい」と思うのが、このロビン四人の中で唯一素顔を出せそうなキャラがいるとしたらそれは一人だけデザインの浮いているジェイソンだろうし(たとえばディックだけ外したら、同じドミノマスクの他の二人はなんで外さない?みたいな違和感がどうしてもつきまとう)、ジェイソンは映画の中でもファーマーのジョーカー・ハーレイを追う中、一瞬編笠を上にあげて笠の下は口元に赤いマスクで目元にはドミノマスクがないことは確認できる。なので「ジェイソンは編笠の下に口元のマスクはしていない」という少しのオリジナル要素を足してやるだけで、ジェイソンは編笠を脱ぐだけで素顔が出せる。映画で一度もドミノマスクを外さなかったディック、ティム、ダミアンに比べれば一番素顔を晒しやすいポイントはジェイソンだ。さらに後述するが、ジェイソンが口にマスクをしてはまずい理由が戦法上存在するので大義名分もある。うますぎる。にくい演出だ。

こうまでして長々と書いてきたが、言いたいことは以下の通りだ。

つまり、コミカライズの中でジェイソンが一人だけ素顔を晒したことには大きな意味があるだろうということだ。

 

ジェイソンが素顔を晒す時について

作中ジェイソンが素顔を晒すシーンは大きく分けて2つ、上巻下巻で一回ずつである。上巻は、最初のジョーカーとの戦いにバットファミリーが破れたあと、水辺で一人狙撃の練習をする時。下巻は、デスストロークとの戦いの後から最後まで。

この二回に共通するのは、一つだ。ブルースの不殺の誓いである。ジェイソンが素顔になる時、そこに流れるテーマはブルースの不殺の誓いになる。

最初に素顔を晒すシーンでは、ジェイソンは戦国という時代でブルースの不殺の誓いを守っても無駄だと訴える。切ないのは、ジェイソンはなにもこの時代に飛んでから、最初からブルースの誓いを無意味と思って破っているわけではない。ジェイソンはジェイソンなりに、結果論だったとしても、ブルースの不殺の誓いを守っていた。それは使うことのなかった.45ACP弾で明らかになっているし、二年ブルースを待っても事態が好転しなかったことに対して「アンタに付いたのが間違いだった」と言い捨てたことにも表れている。難民キャンプについても設立に尽力していたのはこのあと判明し、つまり彼は彼なりにブルースに寄せながら二年待っていたということだ。

けれど結果ブルースたちはジョーカーに惨敗を喫することになり、21世紀から持ち込んだガジェットも全て失った。一時でも信じて寄せたやり方で失敗し、皆大怪我を負って逃げ帰ることになってしまった。

ブルースは「無関係な人足を殺させない」ために崩れ落ちる蒸気機関から彼女をかばった。それは罠であり人足の正体は擬態したハーレイだったため、手酷い攻撃を受け、隠れ里の動物使いの機転がなければトドメをさされていた始末だった。生還したものの、ダミアンに肩を貸してもらえないと歩けないほどの状態だ。

そして、炎を浴びたことでかつて自分が死んだ時のことがリフレインし我を失いディックに保護されたジェイソンは、ディックと一緒に「通信に応答しないバットマン」という状況を共有していたはずだ。

こんな状況でジェイソンの言える本音なんて、それは不殺の誓いの無意味さだけだろう。しかも、今回はこれまでとは重みが違う。

悪党は殺さず生かして捕まえるから逃げ出したそいつがまた殺しをやってキリがない。だから悪を持って悪を制すしかゴッサムに平和をもたらす方法はない。これが復活したレッドフードが最初バットマンに言った理屈だ。その後、なぜジョーカーを殺さなかったのかとブルースに迫る中で、こう言う。

ペンギンやスケアクロウリドラークレイフェイストゥーフェイスを殺せと言ってるわけじゃない。ジョーカーだけだ、ただこいつだけだ。だってこいつはあんたから俺を奪ったんだぞ?と。

その前談で、もしジョーカーがあんたのことを滅多打ちに殴りつけてあんたのことを殺すようなことになったら俺はその腐れ外道の悪魔を世界中駆けずり回ってでも見つけ出して地獄にぶち落とす、と彼は言った。それを言ったというのに、バットマンはお前はわかっていないと不殺の誓いを説く。堕ちるのは簡単だが墜ちたら二度と戻れない。けれど、ジェイソンが言いたいことはそう言うことではなかった。だから皆まで言ったのだ。

悪を持って悪を制すとかじゃない。悪人全員を殺さなきゃならないということが言いたいんじゃない。ただ、俺をボコボコに痛めつけ殺し、あんたから俺を奪ったこの男を、その理由だけで殺してはくれないのか?その理由でもあんたの不殺の誓いは破られないのか?俺にはその理由だけあればこいつを殺すのには十分すぎるくらいだ。それでも、あんたはこの男を殺せないのか?

ドミノマスクが半分割れ、ヘルメットも外れた、レッドフードではなくジェイソン・トッドはブルースに切に訴えたのだ。けれど、バットマンの答えは「すまない」だった。これが二人の不殺の誓いについての認識のズレだったはずだ。

ニンジャバットマンのジェイソンは、このやりとりがあった上で言う。この戦国の時代には法がない。時代そのものが自分たちに殺意を向ける。そんな時代に不殺を誓っても意味がない。背を向けながらも、赤い編笠も外しマスクもつけずに本当の素顔でジェイソン・トッドは訴える。このジェイソンは、痛いほど譲歩していると私は思った。かつてジェイソンは、悪を持って悪を制さなければゴッサムに平和はないと言った。そして、親しい人を酷い方法で奪われたという言い訳まであるのにそれでもジョーカーという稀代のシリアルキラーを殺せないのか?と本音をこぼした。アンダーザレッドフードでも、仮面を半分外してジェイソンは譲歩して提案している。

自分の死をもってしてもジョーカーを殺してくれないのか、なんて、こんな惨めな方法で愛を確かめようとするジェイソンだった。その上で、今回さらに譲歩した。悪党を殺せとは言わない。自分が死んだ仇を討てなかったこともいい。

ただ時代そのものが自分たちに殺意を向ける中で、21世紀のガジェットもなくして、一方でジョーカーたちは城を有しルール不問で全力で自分たちを殺しにかかってくる。それでも不殺の誓いを守って「ブルースが」死んでは意味がないだろう。だから誰より自分を守ってくれよ、たとえ誓いを破ることになったとしても。

これがジェイソンの訴えたかったことではないか、と私は思うのだ。

そしてアンダーザレッドフードではジェイソンの本音を汲めなかったバットマンは、今回は正しくジェイソンの真意を理解している。だからブルースは言う。この時代を「生きる」ための技術が存在する。それに自分たちは気づかなかった。その強さを今から学べばいい。最新のガジェットがなくても大丈夫。この身一つで自分たちはまだ戦える。

だから、また失うかもしれないなんて不安に思わなくていい。

それが、皆まで言えなかったジェイソンの本音に、皆まで言わず応えることのできたブルースのアンサーだと思う。だからこの場面のブルースは、素顔のジェイソンに次いだオリジナル要素、カソック衣装を着た素顔のブルースである必要があったのではないか。

アンダーザレッドフードでは半分素顔を晒したジェイソンとバットマンだった二人。お互いの真意がすれ違い、それに応えることができず決裂した二人。

それをもう一度やり直すシーンが、あの水辺の問答なのだと思う。そして素顔であることは本音の比喩であると同時に、当然だけれど表情を描くことを可能にする。「まだ戦える」とブルースに告げられたジェイソンの表情は、素顔でなければ知ることはできない。このジェイソンは、きっと受け取れたはずなのだ。自分が欲しかったと思ったブルースからの答えを。

 

ジェイソンだけが呼ぶ「ブルース」と、ジェイソンだけが見た「ブルース」について

ジェイソンが素顔を晒すもう一つの場面は、デスストロークを倒して以降だ。ここでの倒し方も相当オツである。なぜなら、他の三人のロビンがそれぞれ特訓の成果を披露する中、ジェイソンただ一人だけが「.45ACP弾は使わない」という特訓とは関係ない、ブルースとの約束を果たす戦いをしているのだ。そして仕込み銃と思われていた尺八を本当にそのままの使い道をもって、耳元での超ボリュームで敵を倒す「不殺」で幕を引く。なるほど、これは確かにレッドフードの戦いというより、あの水辺でブルースから応えを受け取ったジェイソン・トッドの戦いと言う方がふさわしい。だからこそジェイソンは最後編笠を脱ぐ必要があったわけだ。

これ以降ジェイソンは編笠を脱いでいるが、話の流れとしてはデスストロークに打たれたことで編笠が破損し、これ以上被っていられないから脱いだのだろう。このあと水に潜ることになるし、どのみち脱がなければならない。

が、本当の理由は当然そこじゃない。ジェイソンがデスストロークとの戦いで披露しなかった特訓の成果、つまり仕込み刀の出番があるからだ。この刀の真意を語るジェイソンが素顔じゃなくてどうするのだ?ここのためにジェイソンは素顔になることを許されたと言っても過言ではないと思う。ここは詳しく語る必要もないほど素晴らしい。ジェイソンは自分自身の不殺の戦いと、ブルースが信じた「生きる力」でブルースを守るという、二つの行いでブルースに応えた。なるほどこんなに完璧なジェイソンとブルースの関係性もないと思うのだ、本当に。

そして、もう一つ興味深いポイントがある。このコミカライズニンジャバットマンでは、ロビン四人の中でバットマンをブルースと呼ぶのは、実はジェイソンだけだ。ダミアンはいつでもバットマンを父さんと呼ぶが、ブルースの名で呼ぶのは四人の中でジェイソンだけ。それも、実は編笠を脱いで素顔になった時だけである。

さらにバットマンがタイムスリップ後の世界で己の仮面を外し、かつザビエル的な変装(バットモービル を見てびっくりして変装セットが取れてしまうギャグシーン含む)も抜きにして本当の素顔で真面目に相対するのは、実は二回だけ。一回は出陣前に隠れ里の面々に挨拶するシーン。これは、最後のオチ、つまり現代に戻ったあと、パーティにて隠れ里の一族の末裔がブルースにバットラングを渡すエンディングに繋げるための伏線だ。それ除くと、実は変装抜きの彼の素顔を見ることができたのは一人しかいない。キャットウーマン、ではなく、そう、ジェイソンだ。

あの水辺のシーンだけが、本当に切り出されたみたいに、素顔を晒し合う唯一の二人なのだ。

だから、このコミカライズ版ニンジャバットマンは本当にジェイソンファンにとってたまらないはずなのだ。だって、自分の死をもってしてもジョーカーを殺してくれないのか、なんて、こんな惨めな方法で愛を確かめようとする必要なんて、この世界のジェイソンにはない。

この物語の中でブルース・ウェインを独り占めしているのは、外でもない彼なのだから。

 

オマケ:全然ディックと似ていないジェイソンの顔について

コミックス下巻には、現代に帰還した後のロビン達4人の後日談が描かれている。そこで初めてジェイソン以外の三人の素顔がわかるのだが、ほんっっっっっとうにジェイソンが全然ディックと似ていない。というか、4人集めて横一列に並ばせたときに、圧倒的にジェイソンだけが絶対に浮くくらい他と違うキャラデザなのだ。

例えばコトブキヤのIKEMENシリーズはロビン達の顔はどことなくみんな似ていて本物の兄弟感がある。

https://www.kotobukiya.co.jp/page-123282/

これと比べると圧倒的に似せる気が本当にないキャラデザなのはわかってもらえると思う。

それが、私は、すっっっっっっっっごく好きだ。ブルース・ウェインにとってジェイソンは誰の代わりでもなく、誰に似せる必要もなく、だた一人のジェイソン・トッドなんだと、少なくとも彼を失ってからブルースはそれを痛いほど理解しているはずなんだと、勝手に私は噛み締めて鼻をすすった。