140字以上メモ

n史郎がツイッター字数制限以上のつぶやきをしたいときの置き場です。

【クレガロ妄想】結婚と離婚のジェットコースターおよび自己愛の男と自己嫌悪の男の結末について

※この記事は腐向けかつクレガロ論なので、無理な人はブラウザを閉じてください

 

今月で見納めかと思うと涙がちょちょ切れてしまい、ガロ編をまた見た。

そこで、また気になる発言を見つけた。クレイに無理矢理ガロを押し付けられた帰り、イグニスとレミーがこぼしたセリフ。

 

「彼(=クレイ)が無理に推してくるからには、余程のキレ者か、余程のバカか」

 

ここが異様に引っかかった。

前者の「キレ者」はわかるのだが、後者の「バカ」が納得できなかった。

というのは、レスキューにわざわざ「バカ」を斡旋する意味がプロメポリス、引いてはクレイ的に全くないからだ。

 

私の視点で行くと、あの徹底した火災対策から見るにバーニング・レスキューという組織は司政官からすれば、表向きかなり重要に思える。その重要な組織に「通常のルートでは取りこぼしてしまいそうな有能な人間(出自や年齢のビハインドがある)を独自ルートで突っ込む」のは理解できても「通常のルートでは弾かれてしまうバカを独自ルートで突っ込む」のは極めてナンセンスだ。司政官としても悪手だと思う。

 

ここから凄まじほどの妄想が広がって、結局私のクレガロ妄想展覧会みたいになった。

自分でも気持ち悪いなと思う。1万2千字くらいある。それだけ書く時間があるなら、話を書けと思う。

 

心優しい方は、この私の見ているキツい幻覚を覗いて、同じ苦しみを分かち合って欲しいと思う。

 

 

クレイの主戦力はフリーズ・フォースでバーニング・レスキューは窓際部署だった

最後まで映画を見てクレイの真意をわかっている我々からすれば、彼にとって重要なのはパルナッソスの燃料となるバーニッシュを捕獲するフリーズ・フォースで、いずれ捨てる街を火災から守るバーニング・レスキューはどうでもよかった、と聞いても、まあその通りだろうな、と思うだろう。

 

だが、重要なのはクレイの真意をわかっていない段階の、前日譚のイグニス・レミーからしてもそうだと思えているところだ。

イグニスとレミーはクレイの執務室(あのビルから飛び出ているクレイの部屋を便宜上をそう呼ぶこととする)でガロを押し付けられた際、「(通常ルートでは採用できないレベルの)バカを押し付けられたかもしれない」と思い至った。

もし自分たちがクレイの主力部隊であったり、プロメポリスの公務職の中で花形だったら、こうは思わないだろう。確かに大企業や有名大学だって通常試験ではパスできないレベルの人をコネのために入れる、みたいな「政治」はありそうなものだが(偏見で失敬)、それは通常ルートで一定の優秀な人材が確保できる見込みがあるからやれることだ。バーニング・レスキューにはそんな余裕はない。なにせ、人員不足なのだから。(クレイもその人員補給の要請をレスキュー側がしてきたことを建前に使っている)

命をかけて人を助ける仕事をする組織が、人員が足りないと訴えている中で「(通常ルートでは採用できないレベルの)バカを押し付けられたかもしれない」という発想に至ったと言うことは、彼らはクレイに大事にされている意識がない、ということに他ならないと思う。

 

つまり、クレイが対バーニッシュ強硬派であり、そのためにお抱えの軍事的討伐部隊を作り、そちらを主力としていたことは、仕事でクレイ向き合ったことがある人間からすれば誰でもわかっていたこと、ということである。

よく考えれば、本編でもヴァルカン大佐がレミーとバリスに絡みながら、自分たちの装備の方がレスキューのギアより最新で優れているというようなマウントを取っていたから、予算の付き方もフリーズフォース>レスキューと言うことは読み取れる。

 

面白いのが、あれだけ腹芸がうまそうなクレイがそれを全く隠していなかったと言うことだ。

私は劇中前半(=フリーズ・フォースがクレイの事実上の私設部隊とわかるまで)は、フリーズ・フォースとバーニング・レスキューは活動現場と職務が被り気味なのと、両組織のリーダーが犬猿の仲なのもあって対立しているが、それはあくまで私怨レベルの話であり司政官・クレイとしては(表向き)どちらもイーブンに扱っているのだと思っていた。

が、それは違ったのだ。クレイは露骨にレスキューをないがしろにしていたし、それをレスキューも察していたのだ。

 

 

政略結婚でやってきたガロは歓迎されない

クレイのコネを使って入ってきた「バカ」の方のガロに、レスキューの皆は冷たかった。

これは当然命を張る現場で、非正規ルートで入れてもらった勘違い君に邪魔されてはたまったものではないと言う、危険な現場の仕事ならではのプロ意識に由来するとは思っている。

が、前述の通りバーニング・レスキューがクレイに対して(冷遇故の)反感をいただいていたのなら、その見え方は少し変わってくる。

前回の記事で、「クレイは色んな問題を混同する人」みたいな事を書いた。この「色んな問題を混同する」が、この時点でレスキューの皆にも働いていたのだと思う。

 

つまり、

・自分たちがクレイに蔑ろにされていること

・ガロはクレイのコネで入ってきて、見た目と素行からしてバカであろうということ

上記二つからの推測で

・ガロは優秀枠(飛び級枠)ではなくバカ枠(クレイのコネ作りのための対価)であり、自分たちは人員不足な上に、クレイのコネ作りのための対価の支払いだけ押し付けられた

と判断し、その不満の矛先をガロに向けたのだと思われる。

 

これ、ガロは何も悪くないのだ。

蓋を開けたらガロが自分で嘆願して入ってきたことがわかるのだが、上記のようなクレイのコネ作りの一貫でガロが入ってきたのだとしたら、ぶっちゃけガロには何もできない。

上が勝手に取り決めたことにガロも従って入ってきただけで、そういう決断(コネを作る対価の支払いを「ガロをレスキューに入れる」と定めること)をするのはクレイとその相手(通常であればガロの父親とかになるのだろう)だ。

そして、恨むべきは「コネ作り>レスキューの職場改善」の決断を下したクレイである。だってガロは政治の道具だ。政略結婚だと思ってもらえれば一層わかりやすい。

 

従って、レスキューが不満の矛先をガロに向けるのは理屈上おかしい。

理屈上おかしいが、心理上としてはよくわかる。逆に、こういう心理がはたらいていないのなら、イグニスがガロの纏を折って「随分と脆い魂だな」と言い放つのは結構やりすぎな気がする。

(これは、映画を見終わった我々がガロの出自と彼の持つ信念の強さを知っているからで、それを知らないなら確かに「ふざけてるのか」と思われても仕方ない気もするが…)

 

 

クレイは悪くないと言えるガロの「愛されている」自信

上記のような心理上の理由で煙たがられたガロは、こう言う。

「クレイの旦那は悪くねえ、俺が無理矢理頼み込んだんだ」

 

このセリフを聞き「司政官にとんでもない奴を押し付けられた」とこぼすレミーが、え?みたいな顔をする。

ここで、意識改革が生まれる。レミーはここに至るまで「ガロが自分の意志でここに来たわけではない=クレイの政治的道具として放り込まれた人形」とガロのことを見ていた。それをガロは否定する。むしろクレイを使ったのは自分なのだと豪語するのだ。

 

クレイが司政官への道を駆け上がっていく際、ガロを助けた美談で注目されたのは確かだと思うのだが、おそらくその時の子供がガロだった、とは大々的に報道がされなかったのだろう。ガロが出てきたらクレイ、みたいなフローはそこまで浸透していなかった。だからイグニスもレミーも「余程のキレ者かバカか」と言ったし、ルチアもピザ屋で「(ガロにとってクレイは)命の恩人なんだっけ?」と聞くし、ガロがわざわざ自分のバックグラウンドを自己紹介のように話すのだ。

ガロといえばクレイ、クレイといえばガロ、が浸透しているなら、キレ者もバカも関係ない。それがガロだからクレイが入れてくる、で察しが付く。

 

だから、ガロは自己紹介した。

今回の人事は完全に自分のわがまま。理事長の息子がコネで入学するのと同じこと。だからクレイが親バカで、その親バカに甘えてわがままを言った自分が悪い。

これは、すごい発言だ。プロメポリスを取り仕切る男にわがまま言って俺が言うこと聞かせました、そう言うことをガロは言っている。間違いなく他意はない。皆がクレイを悪く言うので、違うんだと、それが言いたかっただけだ。悪いのは俺、クレイは優しいから俺のお願いを聞いただけ。

だが、やはりすごい発言だ。これは自分がクレイの特別だと言う自負がないと、出ないフレーズだと思う。というか自分がクレイの特別だと自負しなければ、お願いすらできない。

(実際は、一秒でも早くガロに死んで欲しいクレイが、誘導尋問的にガロにお願い「させた」のが事実だとは思う。けれどガロは自分がクレイに「わがままを言った(言えた)」と思い込めるほどには、自分がそれを言ってクレイに許されるという自負があったことになる)

 

思えば、この時のガロは本当に、なんというか輝いている。纏を折られたのに、溌剌さを一切失わないガロ・ティモスの輝いていることこの上ない。そうなのだ。纏を折られたくらいではガロは傷つかない。ガロの火消し魂はへこたれない。

だってそれが帰属するのは纏ではない。それが帰属するのは、そこではない。

自分のわがままでクレイが叶えてくれた今。自分のわがままをクレイが聞いてくれたというガロにとっての事実。これがガロの足場なのだ。

クレイに愛されているという自身が、ガロを絶対無敵にするのだ。

 

 

クレイが作ったガロとの相思相愛という幻覚、およびその拡散

上記からの構図を整理すると、

・クレイにとって、バーニング・レスキューは人員補充に値しないけれど責任だけはいっぱし以上の事実上死亡率ダントツの窓際部署というかもはや棺桶部署だった

・クレイは何の政治的メリットもないのにガロをコネでバーニング・レスキューに入れた

・上記のコネ入隊はガロの無理矢理のお願いだった

と言うことになる。私がこれを聞いたら、

「クレイ・フォーサイトにとってガロはとても大事な子で、大事な子だからこそ棺桶部署に入れるなんて言語道断で、けれどそのガロの動機が自分への憧れでどうしても恩に報いたいと言って聞かないから、仕方なく首を縦に振ったんだろうなあ」

と邪推するし、世間様からしてもそう見えたのだと思う。

ガロが新人なのに異様に野次馬からエールを送られたのも、これが原因とすれば納得がいく。だってガロは英雄に愛された子供だ。英雄の息子だ。その息子がこれまた人助けに精を出す。嫌いな人がいるだろうか。

 

今になって思い返せば、ガロ「だけ」が表彰を受けたことも、興味深くて象徴的だ。

確かに戦闘で主力だったのはガロだが、あの火災はチームで処理したものだし、バリスやレミー、アイナが救護に当たったからこそガロは戦闘に集中できた。ルチアがマトイ・テッカーを作ったからガロはリオと渡り合えた。そして表彰を受けるのは全員でなく代表なら、それはガロではなく普通で言ったら隊長のイグニスのはずだ。

なのになぜガロ「だけ」が表彰を受けたのか?これを街の人はどうして不思議に思わなかったのか?

クレイ=英雄=ガロが大好きという幻覚を見ている人間からすれば、プロメポリスにとってのレスキューの顔はリーダーのイグニスではなくガロだからだ。

ガロがあれだけエールを一心に浴びていたことからもわかる。ガロのことならわかる市民は大勢いても、イグニスのことを知っている市民はどれほどいるだろうか?

クレイが直々に、しかも主力部隊のフリーズ・フォースを差し置いて表彰するなら、それはもう「ガロ・ティモスしかありえない」というのがあの時のプロメポリス全体が見ていた幻だったのだろう。

この幻が、実に巧妙にプロメポリス全体に拡散されていた。

 

でも、レスキューのみんなは、クレイが幻通りの男ではないことは察しているし、自分たちの部署がクレイにとって窓際なのもわかっている。

だから、ピザ屋でガロが勲章をご機嫌につけていたことに、思いの外誉めそやさなかったのだと思う。彼らはクレイを心からは信頼していない、そして勲章を授かったのはチームとしてのレスキューでもなければ、レスキューのガロ・ティモスですらないことも見えている。あの時勲章をもらったのは、クレイのお気に入りのガロ・ティモスであることも見えてたのではないだろうか。

あの場で誰も不満を言わないのは、ガロ個人がいい奴で、彼が心からクレイを慕っていることもわかっているからだ。これは、彼らのガロへの思いやりだ。

 

それでも、かすかな不信感はのピザ屋に漂っている。

 

もし彼らがクレイを心から信頼しているなら、多分アイナが自分の姉が研究室にこもって何をしているのかわかったものではない、とか言わないだろう。最初はエリスに対する嫉妬かと思ったが、今思うとあれは財団に引き抜かれた姉が得体の知れないことをやらされているのではないかという不信だったのではないかと思う。

レミーも少し呆れたみたいに、ワープなんて夢のようだ、と言う。ルチアが少しバカにしたような大げさっぷりでクレイの栄光の歩みを語る。

 

クレイからもらった勲章を、うっとり見つめるガロだけがあのテーブルで浮いている。

 

ガロは夢を見ている。自分が絶対的にクレイに愛されているという、無意識だけど絶対的な夢だ。

ガロはその夢から自分で醒めることはなかった。だってガロ自体がその夢を疑ってないし、レスキューの皆はクレイ自身に不信はあっても彼のガロへの愛まで疑っていなかったしそれを指摘してやるほど野暮じゃなかった。市民全体だってガロと同じ夢を見ていた。

 

だからガロの夢は醒めなかった。

ただ夢なので、醒める日は必ず来るのだけれど。

 

 

結婚と離婚のジェットコースター

ガロは、スケートの時アイナに語る。自分とクレイの関係を上層部は皆わかっているから、自分の振る舞いには気を付けなければならない、と。

これは、救ったクレイと救われた自分、自分にレスキューの制服を授けたクレイとそれに袖を通した自分、という関係だけを指しているのではないのだと思う。

 

ガロは、側から見て「自分がクレイに贔屓されていると見えている」という認識があったし、自分でもそうだ、という認識があったはずだ。

これは、リオから真実を聞き直談判しにいた際、アポ無し座り込みでクレイの時間をもらえると思っていたところや、自分が聞けば真実を話してもらえると思っていたところからも読み取れる。

つまり、ガロの「自分の振る舞いには気を付けなければならない」は、「”クレイが助けて推薦した男が大したことなかった”という事実を作ってしまうことで、クレイには人を見る目がないとみなされたくない」という意味ではなかった。それでは半分正解で半分不正解だった。

そこには、「自分がクレイの贔屓であるという悪口を言われる隙を作りたくない」という思いもあったと思う。

そしてこんなことが思えるガロは、自分が贔屓にされている自覚があった。贔屓は下世話すぎる。特別、がちょうどいい。自分にとってのクレイは特別だ。そしてきっとクレイにとっての自分も特別なはず。これがガロの足場を作っていたのだと思う。

 

だから、冒頭のガロ・ティモスはあれだけ輝いていたし、マトイ・テッカーという慣れない新装備でも初戦と思われるマッド・バーニッシュとの戦闘で圧倒できたし、リオに身ぐるみを剥がされたって強気でいられた。

火災で全部失った薄暗い過去は、彼に一切の影を落とさない。見捨てられるかもしれないという恐怖も、ガロにはない。何故か?

憧れの大好きな恩人が、誰より自分を見てくれているという絶対の安心感が、ガロにはあったからだ。そしてそれを認めるのが自分だけでなく、周りの誰の目からもそう見えると言う第三者の承認付きで、だ。

彼氏ができていっぱい愛されて自分に自信のある女の子は、絶対無敵で可愛い。フィーバー状態だ。ガロは、そういう状態だった。何が来てもどんとこい、だって俺はクレイに愛されている。クレイの愛を信じている。それがガロの無敵バリアだった。

 

だからそこに絶対的悪意がなくても「バーニッシュはともかくピザ屋の主人を逮捕するのはおかしい」とも言えたし、「バーニッシュは飯を食うのか?」と嫌味も言えた。あるいは、過去に火災で全部を失ったとしても、淀みも腐りもせず輝いていて、マッド・バーニッシュと相対した時に、彼らを自分の過去を壊した憎むべき民族とは見なさず、世間を困らせるテロリストとして相対できていた。

だって、そこには絶対の安心感があった。

クレイ・フォーサイトは自分を愛していると言う安心感だ。愛されている無自覚の自負があるガロ・ティモスは、自分の価値観に疑いは持たない。プロメポリス市民お墨付きの、その絶対無敵の信頼関係が、彼の胸の勲章なのだから。

 

だからこそ、ガロにとって「旦那と呼ぶな」とクレイに殴られ拒絶されたことは、凄まじいショックだったはずだ。

 

ガロは絶対無敵の勲章をクレイに突き返したが、それでも自分とクレイを結ぶ物を信じていた。それがなくても自分とクレイは繋がっている自信があったからガロは勲章を返せたし、真実を追求することができた。

それが、全部ひっくり返された。そこにあったと思っていた絶対無敵の愛は「目障りだった」の一言でぶち壊され、過去まで遡って全て帳消しにされた。

 

クレイは俺の英雄だったのに、とガロは泣く。

私はこれを最初に見た時、彼の中の理想のクレイが壊れてショックだったのだろうな、と表面をなぞって解釈した。そして彼の理想のクレイとは、誰であっても等しく手を伸ばす、「みんなの」英雄だと思っていた。

今、世界の人口がいくらか調べたのだが、四捨五入して76億だった。ここがベースとし、大炎上で人口が半分になったとして38億。ガロは、自分が38億分の1である自覚があるのだと思っていた。

 

でも、違った。

建前的な自覚はあったのかもしれないが、彼の本音は違ったのだ。

 

38億を取りこぼさないはずのクレイが1万人しか選ばないことじゃない。38億を取りこぼさないはずのクレイがバーニッシュを犠牲にすることじゃない。ガロが取り乱したのは、そこじゃない。

それを聞いた時、ガロはクレイを諭していた。クレイ「だけ」では1万人しか救えずバーニッシュを犠牲にするしかないなら、自分「が」根源的な問題を消し去って見せるとガロは言った。

 

ガロは、どうしてこんなことが言えたのか?

あらゆる手段を検討し尽くして、1万人を救ってバーニッシュを見殺しにするのがベストと言い切った憧れの英雄であるはずのクレイに、自分がマグマを消化するなんて強気なことがどうして言えたのだろう?

クレイが言うならそうなんだろう、とはならなかった。なんだったら、間違ってるクレイは俺が正さなきゃ、くらいの能動性があった。

 

それはやっぱり、クレイにとって自分は38億分の1ではなく、1分の1だとガロが自負していたからではないか、と思うのだ。

 

あの時のガロにとって、クレイは「"俺の"英雄」だったし、多分「"俺の"クレイ」だった。ガロの中のクレイは1分の1で、「ガロの中のクレイ」にとってのガロも1分の1だった。ガロからすればそこには確かな絆があって、その絶対の自信がガロにはあった。だから、ああやって言えた。

 

ガロがクレイに殴られ拒絶された時に失ったのは、自分の中の理想のクレイ・フォーサイト、なんてちゃちなものではない。

火事で一度自分の人生にリセットがかかったガロが、あの火事があった日以降、あの実験場に連れてこられたあの日あの時まで培った全部が、よりにもよってその基盤になっていたはずの人の手でぶち壊された。

立っていると思っていたはずの場所には何もなくて、愛し愛されている絶対の自信があった人に、目障りだったと否定され、一方的に理由もなく拒絶され、入れていると思っていたテリトリーから一瞬ではじき出された。

全部失ったものを、全部埋めてくれたと思った人が、その埋めたものは嘘と偽りだったと怒鳴って全部抜き取って行ってしまった。そういう絶望的なまでの喪失が、あの時のガロにはあったと思うのだ。

 

私は、自分でも下世話な妄想だと思うのだが、ガロがクレイから勲章を授かる時、結婚式のようだと思った。

 

与えるにふさわしいクレイと、与えられるにふさわしいガロを、プロメポリスの全市民が見守っていた。

ガロは、授与式の時、襟付きの紺の制服を着ていた。でもピザ屋では、黒のTシャツと赤いニッカポッカを着ていた。少なくとも、ガロは一回着替えた。お色直しだ。着替えたけれど、あの勲章は外さず付け直した。いつも上半身裸のくせに、勲章をつけるためにTシャツまで着て、勲章を付けた。

当たり前だけど、嬉しかったのだ。あの勲章はガロにとって金メダルだし、エンゲージリングでもあった。これからもプロメポリスを守ってくれと、プロメポリスの司政官に告げられる。プロポーズを受けたのだ。嬉しくないわけがない。あれがガロの幸せの絶頂だった。

 

そんなプロポーズを受けてまで授かったエンゲージリングを返すに至ったガロの勇気と、それでも自分とクレイは何とかなると信じたガロの愛が、あのクレイの左手の拳で全部ぶち壊された。

驚くエリスと対比するみたいに、全く動揺を見せず全部知っていたみたいな顔をした秘書のビアルが、どことなくガロと似ていることを私はどうしても無視できない。

彼女はあり得なかったはずのガロのシャドウなのかもしれないが、なんとなく、クレイの浮気相手の隠喩なんじゃないかと思うようになった。

ガロを愛しているふりをしながら、クレイはずっとガロを憎んでいて、どことなくガロに似ている女を秘書にして、ガロの全く知らないパルナッソス計画を進めていた。

 

浮気と言ったら、クレイに申し訳ないかもしれない。

だってクレイに言わせれば、彼は最初からガロを愛していなかったから。ガロが勝手に騙されていただけなのだから。

 

 

最愛の人に嫌われても自分を愛せるガロと誰にも嫌われていないのに自分を愛せないクレイ

 

結婚と離婚のジェットコースターを食らったガロ。ここまできたら、ガロは正負が反転して凄まじいほどの執着をクレイに見せても良いと思う。

 

でも、ガロはそうじゃない。

そして私がプロメアを何回も見る理由は、多分ここにある。

 

ガロは、クレイに裏切られても、クレイに縋らない。

クレイから奪われた愛を、返せとクレイに迫らない。あるいは、誰かに補ってくれと訴えない。

確かにリオがガロを守ってくれるが、それは話の終わりも終わりだ。リオがガロを守ったのは、自暴自棄で憎しみに囚われ暴れ狂うリオ、つまり全く自分に歩み寄って来ない状態のリオに、ガロから歩み寄ったからだ。クレイに裏切られて目障りとも言われ愛をごっそり抜かれて憎悪をぶちまけられてから一週間で、ガロは愛にすがるどころか愛を撒く。

 

ガロは、クレイに自分を嫌う理由も問わない。

拒絶された直後こそ、なんでだと泣いたが、その後、どうして自分を裏切ったとか、自分は何が悪かったかとか、そういう「何故」はもう聞かない。

 

クレイなんか嫌いだ、とも言わない。

むしろ、あんたも助けるとガロは言う。「あんたも助ける」はガロにとっての「清算」だ。クレイが裏切ったこと、クレイがあの日炎を付けたこと、そのわだかまりとそれによって負った傷は、少なくともこの場ではチャラだ。そういう意味だ。

これは、言い換えるなら「特別じゃない」とも取れる。ガロはレスキューなので、生きとし生けるものが目の前で命の危険に晒されているなら、それが何であろうと救うのがモットーだ。別に1分の1じゃなくていい。38億分の1ならガロは助ける。リオでも、地球でも、クレイでも。

お前が俺にどんなことをしたって、お前は俺の38億分の1。それがあの「助ける」に詰まっているのではないか?

 

それを言われて、クレイは「私を?」と呆けたように言った。

クレイはガロの人生をぐちゃぐちゃにしたし、目障りだと怒鳴りつけたが、クレイにとってのガロは全くもって38億分の1ではなかった。1分の1だ。ガロという存在は、クレイの中で何者にも代えられなかった。でなければ、あの異常なまでの悪感情がガロに向くはずもない。

下手をすると、ガロの代わりがいないどころか、クレイにとって自分を除いた世界はガロ・バーニッシュ・それ以外の3択になるかもしれない。それほどクレイにとってガロは存在として大きい。ただしベクトルは負だ。

 

そんなガロから言い放たれたのだ。お前は38億分の1。びっくりだ。それは呆ける。

幼い彼の家を焼き、恩人のふりをし嘘を吐き続け、その死を願ってレスキューに入れ、かつその行いがまるで彼を贔屓するかのように錯覚されるよう上手いこと使い、衆人環境で擬似的な結婚式まで挙げて自分と彼の絶対的な信頼関係をアピールし、それを一番効果的な方法でぶち壊してやった。

そこまでやった。多分、知らないうちに殺すより絶対酷い。考えられる最悪の嫌がらせと言っても過言じゃない。

そこまでやった。

あるいはそこまでやってしまった。

全く意図しないのに運命のいたずらで結果そうなってしまった部分はあるかもしれない。でもガロがそれだけの傷を負ったのは事実。自分がガロに死ねと炎を吐いたのも事実。

なのに、それでもクレイはガロの38億分の1

からのパンチ。キスでもハグでもない。本気のグーパン2発だ。

私はこれを見て、これは「特別じゃない」愛だ……と思ってしまった。ガロは、ついに気づいてしまったんだな、と思った。

 

ガロは、クレイに縋らなくていい。縋る必要が全くない。

自分のことを台無しにする人に、執着する必要はない。時間の無駄。付けられた傷をいつまでも眺めてほじくり返して膿ませるくらいなら、唾でも付けて放っておけばいい。

自分に酷いことをしたって、それに支配されたりなんかしない。誰かの悪意で、自分が堕としめられ、変えられることはない。

ガロにはその強さがある。

 

なぜか?それは、自分を愛せるからだ。

自分を愛せる人は、自分を大事にできる。自分を大事にできる人は、自分がダメになることをしない。人を傷つけたり、貶めたり、阻害することは、巡り巡って自分をダメにする。だからガロはそんなことはしない。その善のループが無意識で回せるのが、自分を愛せる人だ。

 

だから、ガロは言える。

「俺は助けるぜ、リオも地球もあんたもな」

と。

ガロは自分が大事にできるから、みんなを大事にできる。みんなを大事にできるから、クレイも大事にできる。助けられる。

 

そしてガロは、自家発電で自分を愛せる。

クレイが自分のことを嫌いだと言って、与えられていたと思っていた愛が全部ごっそり持って行かれても、ガロの自愛のループは止まらない。回り続ける。

多分これは、ガロの個性だ。外部の影響に左右されない、ガロが持つ絶対無敵の生まれながらに持っている最強の武器だ。クレイに家を焼かれても消えない才能。もしかしら、これが救世主の才能なのかもしれない。

だから、あの日結婚と離婚を一遍に味わってジェットコースターみたいな落差で地面に叩きつけられてもそれで病んだり闇落ちしたりはしない。なんだったらエリスに愛の説教をかます。アイナとエリスに愛を撒く。

ガロは気づいてしまった。ガロが絶対無敵なのは、クレイの愛があるからじゃない。クレイの愛がなくたって、ガロは自分で自分を大事にできて愛してやれるから、自分に自信があって、迷いがなくて、信念は貫くものだし魂は折れないものだとニッカリ笑えるのだ。

ガロはガロだから無敵なのだと、ガロは気づいてしまった。だからクレイにグーパンがかませた。みんなに振りまくみたいな、38億分の1の愛をクレイに渡せた。1分の1の幻のクレイからの卒業だなあ、と思った。元気な卒業だ。ああ気づいてしまったんだね、と愛しくて悲しくなった。

 

 

なるほど、クレイには相当きつかったはずだ。

だってクレイは誰にも嫌われていないのに全く自分を好きになれない男だからだ。

ガロが自己愛の男ならクレイは自己嫌悪の男だ。それは、もう字面その通りでガロが殺したいほど憎かったに違いない。なにせその終わりのない自己嫌悪のループのきっかけが、自己愛の男のガロであっただけに。

その自己愛の男を自己嫌悪の同族に堕とせたら、クレイは嬉しかったのだろうか。クレイなんか死ねと叫ばれたら、クレイは高笑いが止まらなかったのだろうか。

最初はそうでも、多分長い目で見てそんなことはないんだと思う。そんなことで幸せになれるならクレイは最初からガロを殺している。

だから、やっぱりあのグーパンはクレイの助けだし、ガロの38億分の1の愛だった。クレイが黙って大人しくしていれば、ガロはクレイを手に掛ける必要はないし、クレイもこれ以上ガロを傷つける必要もないので。

でもガロは、キスでクレイのうるさい口を塞ぐ、みたいなことはしてくれない。グーパン2発の気絶で黙らせる。だってキスでうるさい口を塞ぐ相手は1分の1の相手だ。クレイは38億分の1だからそんなことしなくていい。

 

少なくとも、あの時は。

じゃあ、これからは?

 

クレイとガロが和解できることはあるのか?

こればっかりは、もう本当にわからない。

そもそも、クレイとガロがお互い和解しあいたいと思っている確証も得られない。ガロがいるだけでクレイは自己嫌悪という傷を己に刻んでいったし、クレイはもっと明示的にわかりやすくガロの人生を壊してきた。

 

非バーニッシュとバーニッシュが手を組んで、プロメアが消えて、それでもクレイとガロは和解しなくても良い(明確な和解描写がないまま映画は幕を閉じでもいい)、というところにプロメアの良さがあると思っている。多分クレイとガロが和解していたら私はこの映画にハマっていない。

 

でも私が、二人が和解してくれたらいいのにと思う理由はわかっている。自己嫌悪のクレイがガロと和解したいと思うなら、ガロがクレイからもらったと思った愛が、嘘じゃないはずだからだ。それはガロの勘違いではなかったと、そう思いたいんだろう。

が、それが嘘じゃなかったとしても、それがガロにとってプラスなのかと言われたら、マイナスなんだと思う。だって愛していたのも本当でめちゃくちゃに傷つけたのも本当なんて、こんなの残酷だし勝手だ。

 

だから、クレイが本当にガロを愛していたなら、自分がガロのことを愛していたとは絶対に言わないんだろう。全部嘘だったし目障りなのは本当でさっさと死ねと言うんだろう。それがクレイがガロに与えてやれるなけなしの愛だ。

それをガロがどう思おうが全く勝手だ。字面通り受け取って、へえへえそうですかと二度と顔を合わせない方がいい。それが普通だ。こんなこじれ切った男を相手にする理由が、ガロにはない。

 

そのくせ、クレイのわかりにくすぎる愛にガロがどうか気づいてくれないかと妄想を止められないのは、認めたくないんだが私がクレイ・フォーサイトが相当好きだからなんだろう、と思う。

わかってはいたが私はクレイが相当好きだ。でもガロも相当好きだ。ああ困った。

 

この、ああ困った、がクレイとガロに夢中になる理由なのだ。

クレイの言葉を借りるなら、本当にもう、度し難い。